1 応急措置法とは
応急措置法とは、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(明治22年4月19日法律第74号)」のことであり、全10条の法律である。
旧民法では、個人より家を重視し戸主に権限を集中し、女や妻は男や夫に先んじられるなど、個人の尊厳と両性の平等を掲げる新憲法の精神に沿わない規定が随所に見られ、本来は民法の大改正が必要であったが、新憲法の制定に間に合わないため、臨時法として本法が成立した。
施行期間は、日本国憲法施行の日である昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までとし、翌昭和23年1月1日に効力を失うとされた。
2 条文(抄)解説
第1条 この法律は、日本国憲法の施行に伴い、民法について、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚する応急的措置を講じることを目的とする。
(解説)日本国憲法第13条、14条、24条等の趣旨の要請により、この法律が制定されたことを示している
第3条 戸主、家族その他家に関する規定は、これを適用しない
(解説)新憲法の趣旨に沿わない家制度を前提とする制度や用語は廃止されることになった
第7条 家督相続に関する規定は、これを適用しない
② 相続については、第8条、第9条の規定による他、遺産相続に関する規定に従う
(解説)家督相続制度は、そもそも家制度のためのものであり、新憲法の趣旨に沿わない
第8条 直系卑属、直系尊属及び兄弟姉妹は、その順序により相続人となる
② 配偶者は、常に相続人となるものとし、その相続分は、左の規定に従う
一 直系卑属と共に相続人であるときは、3分の1とする
二 直系尊属と共に相続人であるときは、2分の1とする
三 兄弟姉妹と共に相続人であるときは、3分の2とする
第9条 兄弟姉妹以外の相続人の遺留分の額は、左の規定に従う
一 直系卑属のみが相続人であるとき、又は直系卑属及び配偶者が相続人であるときは、被相続人の財産の2分の1とする
二 その他の場合は、被相続人の財産の3分の1とする
附則
① この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する
② この法律は、昭和23年1月1日から、その効力を失う
(解説)この附則により、この法律は、昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までの施行となった。
3 応急措置法施行中の相続
(1)家制度の廃止によってもたらされたもの
① 「家」「家族」「家ニアル」「家ヲサリタルトキ」「家ヲ同ジクスル」などの用語は効力を失う
② 去家の概念は廃止された。
よって、家をでても養親子関係は継続し相続権はある。
③ 継親子関係及び嫡母庶子関係は効力がなくなり、単なる姻族一親等として相続権がなくなった
④ 養子離縁後の養親及びその血族と養親の家に残った養子の直系卑属との親族関係は応急措置法施行により消滅した。
⑤ 入夫婚姻制度は廃止されたが、応急措置法施行時点における婚姻の効力はそのまま継続する
➅ 婿養子制度は廃止されたが、応急措置法施行時点における養親子関係及び婚姻関係は継続する
⑦ 遺言養子制度は廃止された
(2)家附の継子について
応急措置法施行中に相続が開始した場合には、家附の継子には手当がなされておらず、相続権がなく不利益をうけた。
その手当として、新民法の附則第26条が規定された。
(3)兄弟姉妹の相続について
遺産相続に関して、兄弟姉妹の相続権が新しく成立した
(4)兄弟姉妹の直系卑属に代襲相続は認められるか
応急措置法施行中は、兄弟姉妹の直系卑属に代襲相続は認められない。
第7条が、第8条、第9条を除いて、旧民法の遺産相続の規定に従うとされているところ、旧民法では兄弟姉妹に遺産相続権はなく、代襲相続も起こらなかったからである。
(5)兄弟姉妹の相続分の差について
応急措置法施行中は、全血の兄弟姉妹(父母双方を同じくする場合)と、半血の兄弟姉妹(父母の一方を同じくする場合)の相続分に差がなく、計算する時は注意を要する。