工場抵当
1 概要
1.趣旨
工場抵当では、(根)抵当権の及ぶ範囲が一般の抵当権より拡張され、付加一体物(民法370条)の他、工場に備え付けられている機械器具その他工場の用に供する者(工場共用物件)に及ぶ。
2.従物の取扱
民法上、従物は付加一体物には当たらないが、従物は主物に従う(民法87条2項)ことを根拠に、従物への抵当権の効力を認めることが多いが、工場抵当においては従物へも抵当権の効力が及ぶと考えられている。
2 対象物件
「工場の属する土地又は建物」が対象物となる
工場共用物件が設置されていない、駐車場や空き地には工場抵当は設定できない
農地や山林等の地目の土地であっても、実勢として工場として利用されている時には工場抵当権を設定できる
3 効果
1.抵当権の効力の及ぶ範囲
原則:土地又は建物及び付加一体物のほか、工場供用物件に及ぶ
例外:①工場所有者のものではない場合
②「もの」ではない場合
③備え付けられてない場合
④設定時に特段の定めをした場合
⑤備付が詐害行為となる場合
2.抵当権の追求力
対象物件が、第三者に引き渡されても、抵当権の効力は消滅しない
ただし、第三者が即時取得した場合には効力は消滅する
3.登記
工場に属する土地又は建物に抵当権を設定した場合、当然に工場抵当が成立し、工場抵当である旨の合意は不要である。
「機械器具類目録」の提出により、工場抵当のである旨の登記は、効力要件ではなく、対抗要件である。
4 登記手続
1.はじめから工場抵当を設定する場合
目的 「(根)抵当権設定」
原因 一般野抵当権設定と同じ
添付情報 機械器具目録
2.一般の(根)抵当権を工場抵当に変更する場合
目的 「何番抵当権変更(付記)」
原因 「年月日変更」
変更後の事項 「工場抵当法第二条の抵当権」
3.機械器具目録の変更または更正
目的 「何番抵当権三条目録変更(更正)」
原因 「年月日備付」「年月日滅失」「年月日分離」等
申請人 工場所有者の単独申請
4.工場抵当権を一般の抵当権に変更
目的 「何番抵当権変更(付記)」
変更 「年月日機械器具備付廃止」「年月日変更」等
変更後の事項 「工場抵当法第三条抵当権の登記の登記事項の抹消」
5 実務のポイント
1.工場敷地が複数の土地である場合
土地ごとに「機械器具目録」を作成する
2.複数の抵当権を設定する場合
抵当権ごとに「機械器具目録」を作成する
3.所有者の一致
土地又は建物と工場供用物件の所有者が異なる場合には成立しない
4.不動産上の権利
工場抵当は所有権にのみ成立し、地上権には成立しない
工場財団抵当
1 概要
工場を構成するさまざまな資産を一個の不動産とみなして、まとめて(根)抵当権を設定することができる
2 対象物件
1.種類
①土地および工作物
②地上権、賃借権
③工業所有権
④ダム使用権
2.任意選択主義
工場の全ての物件を工場財団の組成物にする必要はなく、選択することができる(工場抵当法11条)
3.対象外のもの
①他人の権利の目的となっているもの
②差押、仮差押、仮処分の対象となっているもの
③他の工場財団の目的となっているもの
3 効果
1.工場財団は所有権保存登記によって成立し、一個の不動産とみなされる
2.工場財団は所有権または抵当権以外の目的の対象とはならないが、例外として、抵当権者の同意がある場合には、賃借権を設定できる
3.工場財団の組成物件は、工場財団とは別に処分できない
4.6ヶ月以内に抵当権が設定されない場合、工場財団は消滅する
4 登記手続
1.工場財団所有権保存登記
(1)前提手続き
①工場財団組成物件の名義を工場所有者と同じ者に登記・登録等を行う
②工場財団組成物件が他人の権利の目的となっている場合は、それを抹消する
(2)登記申請
目的 所有権保存
原因 不要
添付情報 工場財団目録
(3)処分の制限の登記・登録
「工場財団に属すべきものとして工場財団の所有権保存登記の申請があった」旨のが各工場財団組成物件の登記記録等に記録される
(4)官報公告
登記・登録制度のない動産につき権利を主張するものは申し出るべき旨が公告され、公告期間終了により、他人の権利が存在しないものとみなされる
(5)登記の実行
所有権保存登記がなされると同時に、各組成物件に「工場財団に属した」旨が登記・登録される
2.(根)抵当権設定登記
(1)期限
工場財団の所有権保存登記後6ヶ月以内に設定しなければならない
(2)登記申請
登録免許税が軽減されている(1000分の2.5)
(3)処分の制限の登記後にされた登記の職権抹消
処分の制限の登記後になされた差押、仮差押、仮処分等の登記は、工場財団への抵当権設定登記と同時に職権で抹消される
5 実務のポイント
1.設定時期
動産等を組成物件とする場合、官報公告が必要となるため、スケジュールを確認する
2.不動産のみまたは機械器具類のみの工場財団の可否
不動産のみの工場財団は認められるが、機械器具のみの工場財団は認められない
3.一般抵当権から工場財団への威光
組成物件に抵当権がある場合、まず抹消し、所有権保存登記後に改めて工場財団に抵当権を設定する
4.地役権の扱い
①要益地
地役権のみを組成物件にはできないが、用役地を組成物件とすることで、抵当権の効力は地役権に及ぶ
②承役地
他人の権利の目的となっている土地は組成物件にはできないため、承役地となっている土地は排除される
ただし、承役地上の賃借権は他人の権利の目的となっているわけではないので、組成物件とすることができる