家督相続
1 家督相続とは
家督相続とは、戸主の法律上の地位の承継と財産の承継である。
家督を相続する者は、前戸主の家長としての身分及び所有財産並びに祭祀を全て受け継ぐ。
家督相続する者は1名に限られる。
2 家督相続が開始する原因と登記原因
登記原因はいずれも「年月日家督相続」とする
(1)戸主の死亡
失踪宣告された時も家督相続が開始する
戦死の記載の死亡の日に死亡したとみなす(判例)
(2)戸主の隠居
(3)戸主の国籍喪失
日本人が外国人の妻となり夫の国籍を取得したときには日本の国籍を失い、家督相続が開始する
(4)戸主が婚姻または養子縁組の取り消しによってその家を去った時
(5)女戸主の入夫婚姻
女戸主との婚姻により入夫が女戸主の家に入ると、家督相続が開始する。
但し婚姻時に入夫が戸主となることを届出なかった場合には家督相続は開始しない
(6)入夫戸主の離婚
夫が離婚により家を去ると家督相続が開始する
3 家督相続の開始時期
①隠居は届出日
②国籍喪失は国籍喪失日
③婚姻または養子の取消は裁判の確定日
④入夫婚姻は届出日
⑤協議離婚は届出日
➅裁判離婚は判決確定日
4 家督相続の種類と順位
(1)第1順位 第一種法定推定家督相続人
家族である直系卑属は次に従って家督相続人となる。
直系卑属には自然血族(嫡出子、非嫡出子)および法定血族(養子、継子、嫡母庶子)を含む
①親等の異なるものの間では近い者が優先する孫より子供が優先
②親等の同じ者の間では男が優先する
③親等が同じ男または女の間では嫡出子が優先するただし、庶男子は嫡出女子に優先する
④親等が同じ者の間では女子においても嫡出子および庶子が優先する庶子の女子は男の私生子よりも優先する
⑤いずれにしても年長者が優先する
➅養子は養子縁組の日に嫡出子となり、家督相続においてはその日に生まれたものとする養子が年長でも、縁組前に生まれた子に劣後する
⑦入夫婚姻はいずれにも優先する
事例1 他家から入った直系卑属の相続順位
自分の嫡出子であるが他家にあるものを養子として、第一種法定推定家督相続人とすることができる親族入籍や引取入籍によって他家の嫡出子を家に入れた場合には、他に直系卑属がいない場合にのみ第一種法定推定家督相続のルールに従って家督相続人となる
事例2 親族入籍と離婚離縁による復籍との比較
親族入籍により復籍したものは相続順位は劣後する一方、離婚離縁により復籍したものは以前の相続順位を回復する
事例3 婿養子の相続順位
法定の家督相続人はその姉妹の養子縁組によって、相続権を害されない唯一の女子が婿養子を迎え、婿養子が法定推定家督相続人となるが、その後実子が生まれたら、その実子が法定推定家督相続人となる
事例4 通常の養子と婿養子の比較
戸主に法定推定家督相続人たる男子がいる場合、その者の相続利益を害さないため、男子の養子はできないとされている。
一方、婿養子縁組は可能であるが、相続順位はその家女たる妻と同順位となる。
従って、庶子、女子のみがいて婿養子を迎えた場合、相続順位は1庶子、2婿養子、3長女となる。
事例5 戸籍と登記実務
前戸主が旧民法中に死亡しており、その子が第一種法定推定家督相続人となっているが届出がないまま除籍となっている場合、家督相続の記載がなくても、当然に家督相続人と認定する。
事例6 代襲相続
第一種法定推定家督相続人が、家督相続開始前に死亡または相続権を失った場合には、その直系卑属が代襲して家督相続人となる。家督相続前に長男が死亡した場合、二男が家督相続人となるが、長男に子があれば、その子が二男に優先する。
(2)第2順位 指定家督相続人
法定の推定家督相続人が不在の場合、非相続人は家督相続人を指定することができる
・指定の要件
① 法定の家督相続人がいないこと
② 家督相続開始の原因が死亡または隠居であること
・指定の方法
戸籍吏への届出
・被指定者
家督相続の無資格者である外国人を除けば、他家の戸主でも自由に指定ができた。
被指定者は単純承認、限定承認、放棄ができた。
・指定の効力消滅
指定後に、子供が生まれるなど法定推定家督相続人が存在した場合被指定者が死亡した場合
・指定家督相続人と戸籍の記載
戸主の事項欄
「千葉県千葉郡千葉町五番地戸主乙野忠蔵四男忠四郎を家督相続人に指定届出大正拾年五月四日受付」
被指定者が除籍される場合の事項欄(指定者死亡後戸主になる場合)
「指定により千葉県千葉郡三番地甲野儀太郎死亡乙野忠蔵届出昭和弐拾弐年参月拾参日千葉町長受付同月弐拾八日送付除籍」
・養子縁組ではなく指定家督相続人の方法を取る理由
養子縁組は尊属や年長ではいけないが指定には制限がない
養子縁組は配偶者とともにする必要があるが、指定には制限がない
養子縁組は双方行為であり取り消しに制限があるが、指定は単独行為であり制限がない
・指定家督相続人と応急措置法
指定後家督相続開始前に応急措置法が施行された場合には、指定はその効力を失う
(3) 第3順位 第一種選定家督相続人
第一種法定推定家督相続人も指定家督相続人もいないばあい、家督相続人を選定する
・選定権者
①非相続人の父
②父がいない場合や意思表示ができない場合は母
③父母がいない場合または意思表示ができない場合は親族会
・非選定者
家族の中から次の順序で選定する
第1 家女である配偶者
第2 兄弟
第3 姉妹
第4 家女でない配偶者
第5 兄弟姉妹の直系卑属
(4) 第4順位 第二種法定推定家督相続人
第一種選定家督相続人がいない場合、次の条件を満たす者が自動的に家督相続人となる
①直系親族であって親等の近い者(姻族は含めない)
②被相続人の家族であること
③親等の同じ者の間では男が優先
(5) 第5順位 第二種選定家督相続人
第4順位までの家督相続人がいない場合には、親族会が家督相続人を選定する
・選定者
親族会
・被選定者
被相続人の親族、家族、分家の戸主または本家もしくは分家の家族から選定する。
選定の順位は自由である
その中にいなければ他人から選定しても良い
・家督相続人を選定してたが届出ていなかった場合
選定していたのであれば、現在でも選定を証する書面を提出して戸籍の届出をすれば受理される
・家督相続人を選定すべきであったのにしていなかった場合
新法施行日までに選定していなかった場合、新法が適用される
・「被選定者のない旨の証明書」
戸主に不動産があり、選定が必要であるがなされていない場合、新法による相続登記に「家督相続人不選定証明書」は不要である。
遺産相続
1 遺産相続とは
遺産相続とは家族の死亡により、その者の財産上の地位を一定の者に法律上当然に承継させる制度である。
旧民法748条により、家族が自己の名前で取得した財産はその特有財産とされていた。
その家族が、家をでて家族でなくなっても、国籍を離脱しても、本人の財産は変わらず、家督相続から影響は受けない。
2 遺産相続となる財産
家族が自己の名で取得した特有財産
隠居した戸主が留保した財産
女戸主が入夫婚姻した時に留保した財産
3 遺産相続が開始する原因と登記原因
家族の死亡のみである。(失踪宣告による死亡を含む)
登記原因は「年月日遺産相続」
4 遺産相続人の順位
・第1順位は直系卑属
家督相続と異なり、同じ家にいることを要しない
養子と非養子、嫡出子と非嫡出子、継嗣子関係の嗣子、嫡母庶子関係の庶子も直系卑属として同順位である
・代襲相続
第1順位の直系卑属が相続開始前に死亡した場合にはその直系卑属が代襲相続人となる
・第2順位は配偶者
直系卑属がいない場合には配偶者が相続人となる
・第3順位は直系尊属
直系卑属、配偶者がいない場合、直系尊属が相続人となる
・第4順位は戸主
上記の者がいない場合、戸主が相続人となる
戸主が相続を放棄したり、絶家等により相続人がいなくなった場合には、相続人曠欠の手続きにより国庫に帰属する
5 法定相続分
第1 指定相続分
被相続人は、遺言により相続人の相続分を定め、または第三者に相続分の定めを委託することができた。
第2 法定相続分
同順位の相続人は均等であるが、非嫡出子(庶子、私生子)の相続分は嫡出子の2分の1であった。
第3 遺留分
1.家督相続人の遺留分
家督相続人が直系卑属の場合、遺留分は2分の1
直系卑属以外の家督相続人の遺留分は3分の1
2.遺産相続人の遺留分
直系卑属の遺留分は2分の1
配偶者および直系卑属の遺留分は3分の1
第4 登記原因は家督相続か遺産相続か
旧民法中、隠居または女戸主の入夫婚姻により戸主権を喪失した後に死亡した場合、その財産の所有権移転の原因が問題となる。
留保された財産なのか家督相続による移転が未処理の財産なのかという問題である。
隠居後に取得した財産は特有財産として遺産相続となるが、留保財産であることが証明できない場合、家督相続の処理が必要かもしれない。