外国人(自然人)が日本で事業を展開する場合の類型
(1)外国人が日本で会社を設立する場合
選択肢としては、株式会社か合同会社の設立を検討することになる。
株式会社は「Private Company by Share」
合同会社は「Limited LIability Company (LLC)」
と説明し、会社の違いのイメージをつかんでもらう。
(2)外国人が日本で有限責任事業組合(LLP)を設立する場合
「Limited LIability Partnership」の略称であり、民法組合の特例として位置づけられている。
法人格がないため、法人税が課せられた後、出資者への利益分配にも課税される二重課税がなく、選択肢となる。
ただし、専門的な技能を持つ人材による共同事業のような案件で利用されることが多く、事業展開する上では一般的に会社設立を希望する場合が多い。
外国会社(法人)が日本で事業を展開する場合の類型
外国会社とは、外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体で、会社と同種または類似するものである。(会社法2条2号)
外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることはできない。(会社法818条1項)
(1)外国会社が日本に営業所を設けない場合
「駐在員事務所」と呼ばれ、日本における代表者の住所地で外国会社の登記を行う。(会社法933条1項1号)
登記の目的は「外国会社の日本における代表者選任登記」
外国会社が日本で事業展開する前段階の市場調査や情報収集を目的に選択肢となる。
外国会社名義の銀行口座開設が難しいく、事務所の賃貸契約も代表者の個人名義となるなどから選択肢から外れることもある。
(2)外国会社が日本に営業所を設ける場合
「外国会社の日本支社」と呼ばれ、営業所の所在地で外国会社の登記をする。(会社法933条1項2号)
登記の目的は「外国会社の営業所設置登記」
(3)外国会社が日本に子会社を設置する場合
「Subsidiary」と言われた場合、子会社の設置を検討していることを意味する。
設置形態としては、株式会社または合同会社がある。
合同会社では、事業年度ごとに決算公告義務がなく、役員の人気がないため長任登記が不要であること、出資者の出資比率に関わらず、利益分配を柔軟に決定でき、必要であれば株式会社へ移行できることなどを説明する。
登記手続きのための聴き取り調査
日本語 | 英語 | 日本語 | 英語 | 日本語 | 英語 |
法人 | Legal entity | 有限責任 | Limited Liability | 子会社 | Subsidiary |
親会社 | Parent company | 株式会社 | Private company by share | 株 | share |
株主 | Shareholder | 発起人 | Incorporator Investor | 合同会社 | Limited liability company |
(合同会社)社員 |
Partner member |
日本における代表者 |
Represetative in Japan | 商号 | Trade name |
事業目的 | Purpose Objective | 本店 | Head office | 支店 | Branch office |
公告 | Public notice | 官報公告 | the official gazette Kanpo | 電子公告 | Electronic Public Notice |
発行可能株式総数 |
total number of authorized share |
譲渡制限株式 |
Share with restriction on transfer | 設立 | incorporation Formation |
定款 | Article of incorporation | 署名する | Sign | 記名する | Affix |
印鑑証明書 | Stamp/Seal certificate | 出資する | Contribute Invest | 財産 | Property |
現物出資 | Investment in kind | 公証人 | A notary public | 認証 | Certification |
申し込む | Subscribe | 払い込む | Pay in | 割り当てる | Allot |
資本金 | Capital | 資本準備金 | Capital reserves | 役員 | Officer |
取締役 | Directer | 監査役 | Auditor | 選任 | Election |
就任 |
Appointment | 退任 | Resignation | 代表取締役 | Representative derecter |
取締役会設置会社 |
Company with board of directors | 登記 | Registration | 議事録 | Minutes |
持分 |
Equity interest | 業務執行社員 | Business executive | 代表社員 | Representative |
業務の執行 |
Execution of business | 過半数 | Majority | 加入 | Admission |
退社 |
Withdrawal | 事業年度 |
Business Year Fiscal Year |
会計帳簿 | Accounting books |
計算書類 |
Financial statements | 貸借対照表 | Balance sheet | 損益計算書 | Profit and loss statement |
利益の配当 |
Distribution of profit | 押印する | Seal |
聴き取りの際のポイントとなる英単語
具体的な登記申請手続きについて
1 外国会社の営業所設置登記
外国会社の営業所を設置した場合には、営業所の所在地で3週間以内に外国会社の登記をしなければならない
添付書面(商業登記法129条)
1.本店の存在を認めるに足りる書面
2.日本における代表者の資格を証する書面
3.外国会社の定款その他外国会社の性質を識別するに足りる書面
4.会社の公告方法の定めがある場合にはそれを証する書面
上記の書面は、外国会社の本国の管轄官庁または日本における領事その他権限ある官憲の認証を受けたものである必要がある。
これには本国の公証人により認証された「宣誓供述書」を添付できるため、次の内容を宣誓供述書に記載し、公証人に認証してもらうことで添付書類の作成が容易になる。
①商号②目的③資本金の額④本店及び支店の所在地⑤発行可能株式総数➅発行済株式数並びにその種類と数⑦取締役の氏名
⑧代表取締役の氏名及び住所⑨監査役の氏名⑩公告の方法⑪外国会社設立の準拠法⑫会社設立年月日⑬日本における代表者の氏名及び住所⑭事業年度
2 合同会社設立登記
平成27年3月16日民商第29号通達により、株式会社及び合同会社において、代表取締役および代表社員の1人は日本に住所を有していなければならないという取扱は廃止された。
外国会社特有の注意点は次のとおりである。
①会社の商号以外はアルファベット表記ができないため、役員名はカタカナにする
②登記添付書類への署名押印及び署名証明書(印鑑届出を含む)
③外国人及び外国法人の本人確認書類
④資本金払込のための送金手続
⑤外国為替及び外国貿易法上の対内直接投資に関する届出
登記添付書面への署名押印及び署名証明書
1.印鑑登録できる場合
日本に中長期滞在する外国人には「在留カード」が交付され、特別永住者の方々には「特別永住者証明書」が交付されるため、これらの方々には住民票の写しが交付され、印鑑登録を行うことができる。
2.印鑑登録できない場合
①これ以外のケースは「登記の申請書に押印すべき者が外国人であり、その者の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付することができない場合」(平成28年6月28日民商第100号通達)に該当するため、当該外国人の本国官憲(領事または日本における権限ある官憲含む)の作成した証明書の添付に代えることができる。
②本国の法制度上やむを得ない理由により、当該署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書を取得できない場合には、その旨の上申書および署名が本人のものであることの日本の公証人または当該外国人の居住する国の官憲の証明書にの添付で代替できる。(平成29年2月10日民商第16号通達)
3.契印
添付書類が複数のため契印する場合、押印できない外国人等は次の方法により、署名することで足りる。(平成29年2月28日法務省民総第131号法務省民事局総務課長通達)
①割サイン
②余白に署名
③余白にイニシャル
④袋とじに署名
外国人及び外国法人の本人確認資料
(1)日本在住の外国人
印鑑登録証明書、在留カード、運転免許証、パスポート、領事館発行の署名証明書など
(2)外国在住の外国人
パスポートおよび国籍国で発行された顔写真付き本人確認書類で確認すると共に、宣誓供述書をお願いする
(3)日本に登記記録のある外国法人
法務局発行の履歴事項全部証明書および上記(1)(2)で代表者の本人確認をする。
(4)日本に登記記録のない外国法人
実務上は、本店所在国の権限ある公証人が認証した宣誓供述書によって、法人の名称、本店又は主たる事務所の所在地および代表権を有する者の氏名住所を確認する。
資本金払込のための送金手続
合同会社の設立登記申請には、出資の履行の払込(会社法578条)があったことを証する書面が必要である。
1.外貨での払込
払込のあった日の為替相場(◯年◯月◯日1ドル=〇〇円)および払込金額のその日の為替相場に基づいて換算した日本円の金額を記載する。
ただし、為替レートの関係で資本金に増減と端数がでてしまうため。円建てで送金してもらうのもよい。
2.払込銀行
国内銀行の国内本店および支店、外国銀行の日本国内支店に加え、国内銀行の海外支店も含まれた。(平成28年12月20日民商第179号通達)
ただし、海外支店はATMがなく、個人の出入金を取り扱わない場合が多い。
3.払込を証する書面
発起人および設立時取締役全員が日本国内に住所を有していない場合、発起人および設立時取締役以外の者(自然人に限られず、法人も含む)の預金通帳の口座を利用し、払込があったことを証する書面として、当該第三者の預金通帳の写しを添付したほうが登記手続きはスムーズに進む。
この場合には、「発起人が第三者に対して払込金の受領権限を委任したことを明らかにする委任状」を添付することになる。
4.出資金領収書
合同会社の設立の場合は、出資金の銀行口座振込に替えて、代表社員の作成する出資金領収書の添付でも可能である。
外国為替及び外国貿易法上の対内直接投資に関する届出
外為法は、対外取引を原則として自由としているが(外為法1条)、日本と外国との間の大量の資金移動による日本国の金融・資本市場への影響を懸念して、財務大臣が、居住者に対して許可を受ける義務を課す事ができる。(外為法16条)
外国会社の営業所設置や合同会社の設立は、外国投資家が対内直接投資を行う場合に該当し、、「株式・持分の取得等に関する届出書」を提出するケースが多い。
届出が必要な要件
①届け出が必要な外国投資家の定義
ア 非居住者である個人
イ 外国法令に基づいて設立された法人その他の団体又は外国に主たる事務所を有する法人その他の団体
ウ 上記ア、イに掲げる者に直接又は間接に保有される議決権の合計が50%以上の議決権を有する国内会社が保有する
議決権をいう(直投令2条1項)
エ 非居住者である個人が役員又は代表権限を有するいずれかが過半数を占める本邦の法人その他の団体
②対内直接投資
ア 日本国内の非上場会社の株式または持分を取得する場合。
例外として、発行済株式又は持分を他の外国投資家から譲り受ける場合を除く。
また、日本国内の非上場会社の株式又は持分を取得する場合であっても、出資比率が特別の関係にある者と合わせ
て10%未満である場合、書類の提出が不要となる。
イ 非居住者個人又は外国法人である外国投資家が、国内に支店、工場その他の事業所を設置する場合。
(駐在員事務所は除く)
③報告の時期
会社設立登記の日の属する月の翌月15日までに、日本銀行国際局国際収支課外為法手続グループ及び最寄りの日本銀行支店で受付する。
④提出書類
「株式・持分の所得等に関する届出書」
⑤提出者
外国投資家本
ただし、外国投資家が非居住者の場合、居住者である代理人が行う。
(注)外国から日本に向けて資本金の払込を行い、日本側で当該金額を受領した場合において、当該金額が3千万円を超える場合には、「支払又は支払の受領に関する報告書」を日本銀行に提出する場合があるので気をつける。