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民事信託の税務

受益者等課税信託

1 信託の効力発生時

1.課税関係

税務上は、財産の所有者は受益者だとみなされる。(所法13①、法法12①)

受託者は名義人として財産を預かり、管理運用しているだけだと考える。

(1)自益信託

委託者=受益者であり経済的価値の移転がなく課税関係は発生しない。

 

(2)他益信託

委託者と受益者が異なる場合、受益者が委託者から権利を受けたものとして課税関係が生じる。

①適正対価なく受益者となった場合

ア 個人(委託者)→個人(受益者)の場合

原則として委託者には課税されないが、受益者は贈与税または遺贈として相続税が課税

イ 個人(委託者)→法人(受益者)の場合

委託者にはみなし譲渡課税、受益者には受贈益課税

ウ 法人(委託者)→個人(受益者)の場合

委託者は寄付金又は役員賞与として扱い、受益者は一時所得又は給与所得として課税

エ 法人(委託者)→法人(受益者)の場合

委託者は寄付金課税、受託者は受贈益課税

 

②適正対価をもって受益者となった場合

委託者には次の課税が生じるが、受益者には課税は生じない

ア 個人(委託者)には譲渡所得課税

イ 法人(委託者)には譲渡課税

 

(3)税務上の各種特例

〈適用可能〉

①小規模宅地等の特例(相続税)

②贈与税の配偶者控除(贈与税)

③固定資産の交換特例(所得税)

④居住用財産の3000万円控除(所得税)

⑤居住用財産の買換特例(所得税)

➅特定事業用資産の買換え特例(所得税)

⑦特定資産の買換え・交換特例(法人税)

〈適用不可〉

①非上場株式に係る納税猶予(相続税・贈与税)

②農地に係る納税猶予(相続税・贈与税)

 

2 信託期間中

1.所得に関する課税関係

信託財産の資産および負債は受益者が有するものとし、信託財産からの収益及び費用も受益者の収益及び費用とする。

〈例示〉

①賃貸用土地・建物等・・・不動産所得

②株式・・・配当所得

③上記信託財産の譲渡・・・譲渡所得

 

2.信託から生じた損失の取扱い

受益者が個人であっても法人であっても、信託財産に関する損失は損失として計上できるが、以下の例外がある。

①受益者が個人の場合

信託財産である不動産所得に損失があっても、信託以外の所得との損益通算はできず、損失の繰越もできない。

②受益者が法人の場合

受益者の信託に係る債務を弁済する責任が信託財産の価額の限度としている場合、信託財産の帳簿価格を超える部分の金額は損金に算入できない。

ただし、不算入の損金の一定額は翌年以降に繰越ができる。

 

3.相続・贈与に関する課税関係

(1)受益者の変更等

個人が委託者兼受益者であったが、信託期間中に受益者が別の個人には、経済的価値が移転したものとみなし、贈与税または相続税が課せられる。

その他のケースも信託設定時に経済的利益が移転したとみなして課税される場合と同様に考える。

 

(2)受益者の一部不存在

 受益者がBおよびCの2人であった場合において、Bの受益権が消滅しCがその受益権の内容を取得したときには、経済的利益の移転があったものとして、贈与税または相続税(遺贈)が課税される。

 

3 信託終了時

1.課税関係

信託財産に係る経済的価値が移転するかどうかによって課税関係は異なる。

(1)終了時の受益者と残余財産の帰属者が同じ場合

→課税関係は生じない

 

(2)終了時の受益者が残余財産の帰属者とならない場合

→経済的利益の移転があったものとして課税される

①適正対価なく残余財産を取得した場合

残余財産帰属者には贈与税、相続税等が課税される

②適正な対価によって残余財産を取得した場合

経済的利益を譲渡したとみなされる受益者には次の課税

なお適正な対価を支払った残余財産帰属者には課税されない

受益者=個人:譲渡所得税

受益者=法人:譲渡課税

 

2.流通税(登録免許税、不動産取得税)

(1)所有権移転

①自益信託の終了(受託者から委託者兼受益者への所有権移転)

→登録免許税及び不動産取得税は非課税

②自益信託が委託者兼受益者の死亡により終了(受託者から委託者兼受益者の相続人への所有権移転)

→登録免許税は土地・建物共に0.4%課税される

→不動産取得税は非課税

③それ以外の場合

→贈与・売買があったものとしてそれぞれ登録免許税、不動産取得税が課税される

 

(2)信託登記の抹消登記

登録免許税:不動産1個につき1000円

 

法人課税信託(受益者が存しない信託)

1 信託の効力発生時

委託者をA、受託者をXとする信託契約を結び、将来の受益者をAの親族であるBとしているケースを考える。

 

例①受益者がいない信託の設定時

委託者Aの死亡時にBが受益者となる定めがあり、A死亡時までは受益者不存在

 

例②受益者が存在しなくなった時(当初受益者の死亡時)

当初委託者Aの自益信託を設定し、A死亡時にBが受益者となる定めがあるが、A死亡時にBが出生していない場合

(孫が生まれてきていない場合など)

 

〈課税関係〉

上記例①及び②のケースでは受託者Xに次の課税がなされる。(相続税法9条の4)

ア 受託者であるXが個人であっても法人とみなし、法人税(受贈益)が課税される。

イ さらに将来の受益者であるBが委託者Aの親族である場合には、受託者Xを個人とみなして贈与税・相続税が課税される。

  尚、贈与税・相続税課税時には法人税相当額は控除の対象となる。

 

2 信託期間中

1.所得に関する課税関係

受益者が存在しない間の、信託財産から生じる所得については、受託者に法人税が課税される。

受託者が個人であっても法人として課税されることに注意する。

 

2.受益者出現時の課税関係(法人課税信託から受益者等課税信託に移行する)

上記1.例①で委託者Aが死亡した時

(1)受託者X:課税関係は生じない

①信託財産を簿価で引き継ぎをしたとみなす

②受益者が存在することになった時に受託法人が解散したとみなされる

 

(2)受益者B

①「契約締結時に存在していた」または「契約締結時に委託者の親族ではない」場合

→課税関係は生じない

②「契約締結時に不存在」かつ「契約締結時等に委託者の親族である」場合

→贈与税が課税される

 

3 受益者が存しないまま信託が終了した場合

上記1.例①で受益者Bが未出現で信託が終了し、残余財産の権利帰属者がCとなった場合の課税関係

 

(1)受託者X:譲渡損益課税

①信託財産を時価で譲渡したものとみなされ、含み損益に課税される

②信託が終了し、残余財産が権利帰属者の移転した時に、受託法人が解散したとみなされる。

 

(2)残余財産の権利帰属者C

①「契約締結時等に存する」または「契約締結時等に委託者の親族ではない」場合

→一時所得課税(受託法人からの贈与)

②「契約締結時等に存しない」及び「契約締結時等に委託者の親族である」場合

→贈与税課税

 

複層化信託について

1 受益者連続型信託以外の複層化信託

1.〈信託受益権の評価〉

元本の受益者と収益の受益者が異なる場合に、次に掲げる価格により評価する

①収益の受益は、将来受けるべき利益を複利原価率を掛け合わせて現在価値を算出したものを合計して求める。

②元本の受益は、信託財産の価格から①の収益の価格を引いて求める。

 

2.〈参考例〉

貸地を30年間信託し、収益受益権は父、元本受益権は子が取得した場合

委託者:父    受託者:X

収益受益者:父(年間賃料1500万円を給付する)

元本受益者:子(信託終了時に貸地を取得する)

信託財産:貸地時価5億円

 

〈課税関係)

(1)信託設定時(期間30年、基準年利率0.1%、複利年金原価率29.954の場合)

収益受益権の価格:1500万円×29.954=4.5億円

元本受益権の価格:5億ー4.5億=0.5億円←父から子への贈与税課税

 

(2)信託終了時(30年)

子への元本(貸地)帰属時には課税関係は生じない

 

(3)信託終了前に、委託者及び受益者の合意等により信託が終了した場合

①信託開始5年後に信託契約を解除した場合

残り25年分の収益受益権が父から子へ贈与があったものとして贈与税が課税される

②父の死亡により信託契約が終了した場合

信託契約の残期間の収益受益権を相続したものとして相続税が課税される

 

2 受益者連続型信託の特例

1.〈受益者連続型信託の受益権の評価〉

元本の受益者と収益の受益者が異なる場合に、次に掲げる価格により評価する

①収益受益権の全部を適正な対価なく取得した場合

信託財産全部の価格

②元本収受権の全部を適正な対価なく取得した場合

*ただし、信託終了時に元本収受権者が残余財産を取得したときは、贈与税または相続税が課税される。

 

2.注意点

収益受益権を個人が有する、複層化された信託が相続税法上の受益者連続型信託に該当するときは、収益受益権は信託財産の全部で評価し、元本受益権はゼロとして評価する。

②複層化信託につき、信託設定時に受益者連続型信託ではないとして、元本受益者が贈与税の申告をしていても、その信託が税務上の受益者連続型信託に該当しているときは、将来元本受益者に権利が帰属する段階で100%評価による贈与税(または相続税)が課税される可能性があることに気をつける。