Q1 信託とはなにか
A1 信託とは委託者が、契約・遺言・公正証書等によって、信頼できる受託者に対し、自己の不動産、金銭等の財産を移転して受託者の財産として帰属させ、信託目的に従って、受益者のために信託財産を管理又は処分等の行為をすべきものとすることをいう。(信託法第2条第1項)
Q2 信託行為にはどのような種類があるか
A2 信託行為は、①契約による信託、②遺言信託、③自己信託の3種類に大別することができる(信託法第2条第2項)。
①契約による信託は、委託者と受託者との間で、受託者が信託目的に従った信託財産の管理又は処分及びその他の必要な行為をすべき旨の契約を締結する方法によるものである(信託法第3条第1項)
②遺言信託は、遺言で信託をする方法で(信託法第3条第2号)、遺言者が死亡し、遺言の効力が発生することにより、信託も効力を生じる。(信託法第4条第2項)
③自己信託は、委託者が自ら受託者として信託を行う意思表示によって設定するものであり、この意思表示は公正証書その他の書面又は電磁的記録により行わなければならない。(信託法第3条第3号)
公正証書又は公証人の認証を受けた書面等による場合は、即座に効力が生じるが、それ以外の書面等による場合は、受益者に対する確定日付のある証書による通知がなければ効力は生じない。(信託法第4条第3号)
Q3 特に目的を定めずに信託行為はできるのか
A3 できない。
受託者は信託目的に定められた一定の目的に従う必要があり、目的の存在しない場合は、信託行為として無効である。
Q4 契約により信託を開始する場合、誰が契約の当事者となるのか
A4 信託契約の当事者となるのは、委託者と受託者であり、受益者は当事者とはならない。
Q5 委託者、受託者及び受益者とはなにか
A5 委託者とは、財産を提供し、信託をする者を言う。
受託者とは、信託行為の定めに従い、委託者から託された財産の管理又は処分等をすべき義務を負うものである。
受益者とは、信託から生じる利益を享受する者を言う。(信託法第2条第4項~第6項)
Q6 どのような財産が信託できるのか。信託することができない財産があるのか
A6 財産的価値がある、あらゆる財産を信託することができる。
不動産、金銭、動産、自動車、株式、債権、特許権等の知的財産も信託することができる。
ただし、委託者の生命、身体、名誉等の人格権は、信託することができない。
また、消極財産である債務も信託することができない。
Q7 信託財産に属する財産につき、誰が所有権を有するのか
A7 受託者が所有権を有する。
信託の効力発生と同時に、信託された財産の所有権は、委託者から受託者に移転する。
なお、自己信託の場合、所有権の移転は生じないが、信託財産に属するものとして権利の性質が変更される。
従って、信託財産に属する財産は、受託者が所有する財産となる。(信託法第2条第3項)
Q8 ある財産が信託財産に属するものであることにつき、対抗要件は何か
A8 登記又は登録が、権利の得喪及び変更の対抗要件となっている財産については、信託の登記又は登録をすることで信託財産に属することの対抗要件となる。(信託法第14条)
具体的には、不動産の所有権、著作権、特許権等である。
これに対して、一般の動産や債権など、公示制度が整備されていない財産については、当該財産が信託財産に属する旨の公示がなくても、当該財産が信託財産に属することについて第三者に対抗することができる。
また、株券不発行会社の株式については、株主名簿に記載又は記録することが対抗要件になる(会社法第154条の2第1項)など、個別の法令において対抗要件が定められている財産も存在する。
Q9 「信託財産」と言う言葉は何を意味するのか
A9 「信託財産」とは、信託により受託者が管理又は処分等をすべき一切の財産を指す。(信託法第2条第3項)
信託財産のうち、不動産や金銭などの個別の財産を指す場合には、「信託財産に属する財産」という言葉を使う。
Q10 受託者になることができない者がいるのか
A10 未成年者又は成年被後見人若しくは被保佐人は、受託者となることができない。(信託法第7条)
信託がなされた後に、受託者が成年被後見人や被保佐人となった場合には、受託者の任務が終了し、原則として、新たな受託者が選任されることになる。(信託法第56条第1項第2号)
また、業として信託の引受を行う場合には、信託業法所定の免許又は登録が必要となるため、司法書士が受託者となることはできない。(信託業法第3条、第7条第1項)
Q11 受託者は信託財産の管理にあたり、どのような義務を負うのか
A11 信託財産の所有者は受託者であるが、実質的な権利者は受益者であり、受託者は、委託者及び受益者の信任を受けて財産を管理又は処分するものである。
したがって、受託者は、自己の財産の管理と同じ注意義務では足りず、善良な管理者の注意義務をもって信託事務を遂行しなければならない。
また、受益者のために忠実に信託事務を遂行する義務や、信託の本旨に従って新託事務を遂行する義務、受託者固有財産と信託財産を分別して管理する義務、帳簿作成義務、委託者や受益者へ事務の処理状況を報告する義務がある。(信託法第29条~第39条)
Q12 受託者が信託の利益を享受することは許されるのか
A12 信託は受益者の利益を図るためにするものであるから、受託者が利益を享受することは許されない。
ただし、受託者が受益者となることが一律に禁じられているわけではないことから、受益者としての地位にある限り、利益を享受することはできる。(信託法第8条)
なお、受託者が受益権の全てを保有する状態が一年間継続すると、信託の終了事由となる。(信託法第163条第2号)
Q13 受託者は信託財産を自由に管理又は処分等できるのか。受託者の権限に制限を設けることはできるのか。
A13 受託者は信託目的の達成のために、自らの裁量によって信託事務を行うことができる。
信託財産に属する財産に関する、補修、売却、取壊し、交換、共有物分割、担保設定、訴訟提起等も、全て受託者の権限に属するものである。
ただし、信託行為の定めにより、受託者の権限に制限を加えることは可能である。
例えば、「売却等の処分を行うには、受益者の承諾を要する」等の定めを置くことにより、受託者の権限を制限することができる。(信託法第26条)
Q14 受託者の任務はどのような場合に終了するのか
A14 受託者の任務終了事由には、下記のようなものがある。(信託法第56条)
①受託者である個人が死亡したこと
②受託者である個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと
③受託者が破産手続開始の決定を受けたこと
④受託者である法人が、合併以外の理由により解散したこと
⑤受託者が辞任したこと
➅受託者が解任されたこと
⑦信託行為で定めた事由が生じたこと
Q15 受託者の任務が終了するとどうなるのか
A15 受託者の任務が終了しても直ちに信託は終了せず、後任の受託者に引き継がれる。
新受託者の選任方法には、次のような方法がある。
①信託行為により、あらかじめ定めた者が新受託者となる
②信託行為により、あらかじめ定めた方法により新受託者を選任する
③委託者及び受益者の合意により新受託者を選任する方法
④利害関係人の申立により、裁判所が新受託者を選任する方法
原則として①②の方法で選任し、定めがない場合や受託者が就任を拒否した場合に③によって選任する。
④は必要がある例外的な場合であり、原則として私的自治に委ねるべきである。
なお、受託者を欠く状況が1年間継続すると、信託の終了事由とな。(信託法第163条第3号)
Q16 信託財産に属する動産や不動産の売却代金は誰のものか
A16 信託財産に属する財産の売却代金は、信託財産に属する金銭となる。
この他、信託財産に属する不動産から賃料収益が上がった場合や、株式の配当金が生じた場合、信託財産に属する財産が損傷又は滅失して保険金請求権が発生した場合、加害者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が発生した場合なども、全て信託財産に属する財産となる。(信託法第16条)
Q17 受託者の信託とは無関係な債務に付き、債権者は信託財産を差押えることができるのか
A17 信託とは無関係な受託者の債務については、受託者固有財産のみが責任財産となり、受託者の債権者は、信託財産を差押えることはできない。
誤って信託財産を差し押さえた場合は、受託者又は受益者は異議を主張することができる。
また、受託者が信託とは無関係に負担している債務と信託財産に属する債権を相殺することはできないし、受託者が破産しても、信託財産に属する財産は、破産財団に属しない。(信託法第22条、第23条、第25条)
Q18 受益者にはどんな権利があるのか
A18 受益者は受益権を持ち、受益権は、自益権と共益権の2種類に分類することができる。
①自益権とは、信託財産に属する財産の引渡や給付を求める権利であり、「受益債権」とも呼ばれる。
単純化すると、信託財産に関する経済的な利益を求める権利である。
②共益権とは、受託者等に一定の行為を求める事ができる権利と定義される。
例えば、受託者に報告を求めたり、受託者の解任に関する意思決定をしたり、信託の終了に関する意思決定をしたりする権利である。
つまり、受益権とは単に経済的利益を得る権利ではなく、受益者が有する様々な権利の総体であり、受益者の地位そのものであるとも言える。(信託法第2条第7号)
Q19 受益権は譲渡できるのか
A19 受益者はその有する受益権を自由に譲渡することができる。
受益権の譲渡の方法は、指名債権の譲渡の方法に従うことになる。
受益権の譲渡は、譲渡人が受託者に通知し、又は受託者が承諾しなければ受託者に対抗できない。
受託者以外の第三者に対抗するにはさらに、確定日付のある証書による通知又は承諾でなければならない。(信託法第93条、第94条)
なお、信託財産に属する財産の中に不動産がある場合、受益者を変更する信託目録の変更の登記をする必要があるが、受益権の譲渡に関しては、信託目録の変更の登記が対抗要件になるわけではないことに注意する。
Q20 委託者にはどんな権限があるのか
A20 信託が成立した後は、受託者と受益者との間で各種の法律関係が形成される。
ただし、委託者は信託の成立に関与した当事者であるから、信託成立後も、各種の権限を持つ。
例えば、信託事務の処理に関する報告請求権、受託者の選任、解任又は辞任に関する同意見、信託の変更に関する同意権、信託終了に関する同意権などである。
Q21 委託者の地位は相続されるか
A22 委託者の相続人は、委託者が有していた信託法上の権利義務を相続により承継する。
ただし、遺言信託の場合は、原則として、委託者の地位は相続により承継されない。(信託法第147条)
Q22 信託はどのような場合に終了するのか
A23 信託の終了事由は信託法第163条及び第164条に列挙されている。
その中で重要なものを以下例示する。
①委託者と受託者の間で合意がされた時
②信託の目的を達成した時又は信託の目的を達成できなくなった時
③受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続した時
④受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続した時
⑤信託行為によって定めた事由が生じた時
Q23 信託の終了事由が発生するとどうなるのか
A23 信託の終了事由が発生すると、信託の清算手続きが開始する。
信託は、終了事由が発生した後も、清算が結了するまでは、存続するものとみなされる。
信託が終了した後以後の受託者を「清算受託者」と呼ぶ。
清算受託者は①現無務の結了、②信託財産に属する債権の取立て及び信託債権に係る債務の弁済、③受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く)に係る債務の弁済、④残余財産の給付といった職務を行う。(信託法第175条~177条)
Q24 信託の清算手続きにおいて残余財産は誰に帰属するのか
A24 信託行為で残余財産の帰属権利者又は残余財産受益者を指定していた場合には、その者に帰属する。
信託行為に定めがない場合には、委託者又はその相続人に帰属する。
残余財産の帰属が定まらないときは、清算受託者に帰属する。(信託法第182条)
Q25 信託の清算手続きが終了した後の清算受託者の事務は何か
A25 清算受託者はその職務が終了したときは、遅滞なく、最終の計算を行い、信託が終了した時における受益者及び帰属権利者の全てに対して、その承認を求めなければならない。
承認があり、清算受託者の執行に不正がないときは、清算受託者の責任は、免除されたものとみなされる。(信託法第184条)