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祭祀財産承継者の指定と遺骨の分骨

事例

 民法897条は祭祀に関する権利の承継について定め、祭祀財産の承継される「祭祀を主宰すべき者」は①被相続人の指定②慣習(同条1項)③家庭裁判所による指定(同条2項)の順に従うと定めている。

また同条は祭祀財産として「系譜」「祭具」「墳墓」の3種を列挙している。

以下の事例は、「被相続人である子供の遺骨」の帰属が争われ、「祭祀承継者の指定」を主位的請求、遺骨の「分骨」を予備的請求としたものである。

 

〈事例〉

X女とY男の子供Aは10歳で死亡した。

喪主としてYが葬儀を執り行い、X・YはYを墓地使用者として、D霊園に墓地を借り、墓石を購入して墳墓を設け、Aの焼骨を埋蔵した。

その後X・Yは離婚し、財産分与調停において「墓地についてはYおいて管理し、Xは随時墓参すること」について合意が成立し、調停証書に記載され、以後墓地の管理料等はYが支払っていた。

 Yは自分の死後、同墓地が無縁墳墓となることを懸念し、実家近くのE家先祖代々の墓地に移し、E家墓所に新たな墳墓を設けて、Aの遺骨を埋蔵した。

 Xは遠方への改葬墳墓へは墓参りも不便なため、遺骨の分骨を求める訴訟を地方裁判所に提起したが請求が棄却されたため、民法897条に基づき、家庭裁判所に祭祀財産の承継者の指定を求める申立を主位的請求とし、予備的に本件遺骨の分骨とその引渡をもとめた。

 裁判では主位的請求については、祭祀主催者をYとする合意が当事者の間でなされているとみなすことができ、「祭祀財産」に準じて「遺骨」の所有権はYにある旨を判示した。

また、897条に基づいて分骨を請求できないとして予備的請求も理由がないとする判断を示した。

 

事例の検討

1 遺骨をめぐる学説・裁判例の整理

1.遺骨は所有権の客体となるか

 遺骨も一般の有体物と同様に所有権の客体となることは認めている(大判大正10・7・25民録27集1408頁)が、遺骨は埋葬管理および祭祀供養の客体にとどまるとする。(大判昭和2・5・27民集6巻307頁)

 つまり、遺骨所有権はその性質上、埋葬管理・祭祀供養の目的に制約されるとする。

学説も判例を支持する立場もあるが、遺骨の所有権を認める必要はなく、単に埋葬・祭祀供養のための管理券をみとめればよいとする立場や、遺骨を一般の所有権の客体にはならない人格を反映したものだとの主張もある。

 

2.遺骨はいかなる根拠で誰に帰属するか

 学説上①遺骨は相続財産であり、相続人に帰属する②遺骨は相続財産ではなく慣習・条理に基づき定められる喪主に帰属する③民法897条の準用または類推適用により、遺骨は祭祀主催者に帰属するとの3つの立場がある。

 最高裁は、遺骨は慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属するとした。(最判平成元・7・18家月41巻10号128頁)

 その後、遺骨を祭祀財産に準じて扱うべきものとして、民法897条を準用する立場を示したものがある。(東京家審平成21・3・30家月62巻3号67頁)

 

3.事例

 本件では「祭祀財産」(897条)に準じて考察すべき遺骨の所有権問題としており、遺骨の所有権を認めつつ、祭祀財産に準じて扱うという民法897条準用する立場だと言える。

 

2 祭祀財産承継者の指定~Xの主位的申立てについて

 祭祀財産に準じる遺骨の承継者(祭祀主催者)は民法897条で定められているが、①被相続人による指定②慣習③家庭裁判所の指定によるとされている。

 本件において、「喪主としてYがAの葬儀を執り行った事実」「祭祀主宰に関するX・Y間の合意」「Yによる墳墓の管理状況」「Yによる改葬の合理性等とYの祭祀主催者適格性」特に当事者間の祭祀主催者についての合意を認めているのが特徴である。

民法897条は当事者間の合意による祭祀主催者の決定を排除していないとする学説・判例も多く、本件も合意による祭祀主催者の決定を認める立場に立ったものと言える。

 

3 分骨請求~予備的申立てについて

 分骨については、墓地埋葬法施行規則が定めている。(同規則5条)

同規則によれば、分骨には①焼骨を墳墓に埋蔵・納骨堂へ収蔵する前に一部を分割し、埋蔵・収蔵する②既に埋蔵・収蔵している焼骨の一部を他の墳墓または納骨堂に移す場合がある。

 本事例は②のケースであり、手続きとしては、墓地・納骨堂の管理者から焼骨埋蔵・収蔵証明書の発行を受け、分骨を納める側の墓地管理者・納骨堂管理者に同証明書を提出して行う。(同規則5条1項。2項)

 本事例の裁判は、Yの反対など諸事情を考慮して分骨を認めるべき「特別の事情」がないとした。